マイクロな話とオングストローム2007年01月20日 17:50

『JIS漢字辞典』増補改訂版の837ページにあるコラム「マイクロな話」は標準化の興味深い裏話です。

JIS X 0213ではISO/IEC 8859-1の文字を全部入れようとして、同規格にある「マイクロ記号」にも独立した区点位置を与えようとしました。それが公開レビューの結果、ギリシャ文字μと同一の文字ではないかという異論が出て、検討した結果「マイクロ記号」としての収録は見送られたという話です。

マイクロ記号としてμを書く際に特段の違いがあるわけではないので、賢明な判断といえるでしょう。UnicodeはISO/IEC 8859-1を特別扱いしてU+00A0からU+00FFにそのままコピーした結果、「マイクロ記号」とギリシャ文字μとが重複してしまっています。(このため、Unicodeを介してコード変換を行うと、8859-1のマイクロ記号がJISのギリシャ文字μと対応させられず、ある筈の文字が無いことになってしまいます。正規化を行えば別ですが)。

ではJIS X 0213に同様の例が無いかというと、実はあるのです。オングストローム記号(Å)と1-09-28「上リング付きA」とが重複しています。

長さの単位オングストロームは人名からきており、この人名の最初の文字「上リング付きA」が記号として使われるようになったものなので、文字としては同じものです。もしJIS X 0208にオングストローム記号が無かったとしたら、JIS X 0213の策定の際に「上リング付きA」とは別の「オングストローム記号」を収録しようとはしなかったのではないでしょうか。ちょうど「マイクロな話」と同様の理由で。

JIS X 0208で既に記号として「オングストローム」を収録していたのが結果的に仇になったといえるかもしれません。